近年、文章作成、画像生成、アイデア出しなど、さまざまな場面で「生成AI」が注目を集めています。さながら私たちの要望に何でも応えてくれる賢いアシスタントのようですが、その性能を最大限に引き出すには、少しだけコツが必要です。
その鍵となるのが「プロンプト(Prompt)」です。
この記事では、生成AIとの対話の質を向上させるプロンプトの基本から、具体的なテクニックまでを、悪い例・良い例を交えながら分かりやすく解説します。
そもそも「プロンプト」とは?
プロンプトとは、生成AIに与える「指示」や「命令文」のことです。私たちがAIに何をしてもらいたいのかを伝えるための、最も重要なコミュニケーション手段と言えます。
AIを「非常に優秀で素直だけれど、文脈を読むのが苦手な新人アシスタント」だと想像してみてください。
▶ 曖昧な指示:「いい感じによろしく」
これでは、アシスタントは何をすれば良いのか分からず、期待外れの結果になるでしょう。
▶ 具体的な指示:「この資料を基に、A社の田中部長宛ての報告メールを、丁寧な言葉遣いで作成してください」
これなら、アシスタントは的確に仕事を進められます。
プロンプトもこれと同じです。指示が具体的で明確であるほど、AIは私たちの意図を正確に理解し、質の高いアウトプットを返してくれます。プロンプトの質が、生成AIの回答の質を左右するのです。
悪いプロンプト vs 良いプロンプト
それでは、具体的なシーンを想定して、悪いプロンプトと良いプロンプトの違いを見ていきましょう。ほんの少し工夫するだけで、アウトプットが劇的に変わることが分かります。
シーン1:ブログ記事のアイデアを出したい
× 悪いプロンプト
『ブログのアイデアを教えて』
これでは、AIはどんなジャンルの、誰に向けた、どんな切り口のアイデアを出せば良いのか分かりません。
○ 良いプロンプト
『あなたはプロのコンテンツマーケターです。
ターゲット読者: 健康志向の30代女性
ブログのテーマ: オーガニック食品
上記の条件で、読者が思わずクリックしたくなるような、キャッチーなブログ記事のタイトル案を10個提案してください。』
【ポイント】
- 役割を与える: 「プロのコンテンツマーケター」という役割(ペルソナ)を与えることで、AIの思考を専門家の視点に設定します。
- 背景を伝える: 「ターゲット読者」「テーマ」といったコンテキスト(文脈)を明確に伝えます。
- アウトプットの形式を指定する: 「キャッチーなタイトル案」「10個」のように、欲しいアウトプットの形式や量を具体的に指定します。
シーン2:クライアントへのメールを作成したい
× 悪いプロンプト
『クライアントにプロジェクトの進捗を報告するメールを書いて』
誰から誰へのメールなのか、どんなトーンで、具体的に何を伝えたいのかが全く不明です。
○ 良いプロンプト
『あなたはプロジェクトマネージャーです。
件名: 【株式会社XYZ】デザイン案のご提出につきまして
伝えたい内容:
-先日お話ししたデザイン案Aが完成し、このメールに添付したこと。
-お忙しいところ恐縮ですが、明日15時までにフィードバックをいただきたいこと。
上記の内容で、丁寧かつプロフェッショナルなトーンのビジネスメールを作成してください。』
【ポイント】
- 具体的な情報を盛り込む: 件名、伝えたい内容を具体的に記述します。
- トーンを指定する: 「丁寧かつプロフェッショナルなトーン」と指定することで、文章の雰囲気をコントロールします。
- 構造化して伝える: 伝えたい内容を箇条書きにすることで、AIが要点を整理しやすくなります。
シーン3:複雑なテーマを要約したい
× 悪いプロンプト
『量子コンピュータについてまとめて』
専門的で広範なテーマを丸投げしているため、一般的で深みのない回答になりがちです。
○ 良いプロンプト
『量子コンピュータの「重ね合わせ」と「量子もつれ」という2つの基本原理について、専門用語を一切使わずに、中学生にも分かるように説明してください。
出力形式:
-各原理を1つの段落で説明する
-全体で300字以内にまとめる
-身近なものに例えながら解説する』
【ポイント】
- スコープを絞る: 「量子コンピュータ」全体ではなく、「2つの基本原理」に焦点を絞ります。
- 制約条件を設ける: 「専門用語を使わない」「中学生にも分かるように」「300字以内」といった制約を設けることで、アウトプットのレベル感や長さを調整します。
- 表現方法を指定する: 「身近なものに例えながら」と指示することで、より分かりやすい表現を引き出します。
記号を活用して指示を明確化する
プロンプトが長くなったり、複雑な指示を出したりする場合、文章だけで伝えるとAIが混乱することがあります。そこで役立つのが記号です。記号を使ってプロンプトを構造化することで、AIは各要素の役割を正確に理解できるようになります。以下にプロンプトで使用する主な記号を紹介します。
記号 | 主な用途 |
---|---|
# | 見出しやセクションの区切り。「背景」「指示」「制約条件」のようにプロンプトの構成要素を明確に分ける時に使います。 |
“”” | テキストブロックの区切り。長い文章の開始と終了を指定します。 |
* | 強調やリスト。箇条書きや特に注目してほしい単語に使います。 |
– | 箇条書き。複数の指示や条件をリスト形式で伝える時に使います。 |
[] | 情報や選択肢。補足したい情報や[はい/いいえ]などの選択肢を与える場合に使います。 |
プロンプトのコツ
良いプロンプトを作成するためのポイントは、以下の通りです。
- 明確かつ具体的に指示する
- 役割(ペルソナ)を与える
- 背景(コンテキスト)を十分に伝える
- 記号を使って構造化し、指示を明確に分ける
- 出力形式やトーンを指定する
- 制約条件を設定する
プロンプトは「対話」のスキル
生成AIは、一度で完璧な答えを返してくれるとは限りません。最初のアウトプットを元に、「もっとこうして」「この部分を修正して」と追加でプロンプトを送り、対話を重ねることで、理想のアウトプットに近づけていくことができます。
プロンプトは、AIという強力なツールを使いこなすための「スキル」です。この記事を参考に、ぜひ色々な指示を試してみてください。AIとの対話が、きっともっと楽しく、生産的になるはずです。