近年、業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の切り札として、「ノーコード」「ローコード」開発ツールが急速に普及しています。その中でも、特に注目を集めているのがkintone(キントーン)とAppSheet(アップシート)です。
どちらもプログラミング知識なしで業務アプリケーションを作成できるクラウドサービスですが、それぞれの得意分野やメリット・デメリットは異なります。本記事では、これら二つのツールを多角的に比較解説します。両者の特徴や違いを理解したうえで、自社に最適なツールを選択してください。
kintoneとAppSheet:それぞれの概要
kintone (キントーン)とは

サイボウズ株式会社が提供する、40,000社以上の導入実績を誇る業務アプリ開発プラットフォームです。プログラミングの知識がなくても、ドラッグ&ドロップの簡単な操作で、日報、案件管理、顧客管理、問い合わせ管理といった多様な業務アプリをスピーディーに作成できます。
200種類以上のテンプレート(サンプルアプリ)と日本の商習慣に合わせた機能(プロセス管理など)が強みです。
AppSheet (アップシート)とは

Google Cloudの一部として提供されている、グローバルスタンダードなノーコード開発プラットフォームです。Google スプレッドシート、Excel、SQLデータベース、Salesforceなど、既存の多様なデータソースからアプリケーションのベースを自動生成できる点が魅力です。
Googleが提供しているサービスのため、GmailやGoogle カレンダーなど、Googleの他サービスとの連携が可能です。
両者に共通する「ノーコード」の魅力
比較の前に、kintoneとAppSheetの共通点を確認しておきましょう。
- プログラミング不要:専門知識がなくても簡単な操作でアプリ開発が可能です。
- 開発スピードの向上:アイデアをすぐに形にし、短期間で業務改善を実現できます。
- 現場主導の改善:実際に業務を行う担当者が、自ら必要なツールを作れます。
- マルチデバイス対応:作成したアプリは、PC、スマートフォン、タブレットで利用できます。
- データベース機能:情報を一元管理し、蓄積・活用するための基盤となります。
- 多様な作成方法:ブランクからのアプリ作成はもちろん、「既存アプリの複製」「対応したデータソースの読み込み」「テンプレートから編集」を行うことでアプリ開発の時間短縮が可能です。
機能面比較:強みはどこにあるか?
両者の違いが最も表れるのが機能面です。以下の表で主要なポイントを比較します。
| 比較項目 | kintone | AppSheet |
|---|---|---|
| データソース | kintone自体がデータベース。CSV/Excel読込は可能。 | AppSheet独自データベース(ASDB)またはGoogleスプレッドシート、Excel、SQL DBなど多様。 |
| UI/UXの自由度 | 標準ではフィールド配置や背景色の変更程度。プラグインで機能拡張可能。 | Google提唱のマテリアルデザイン準拠。シンプルだがカスタマイズ性はkintoneより低い。 |
| 日本の業務フロー | プロセス管理(承認フロー)機能が標準搭載。 | 標準機能では弱い。別途ロジックを組む必要がある。 |
| AI機能 ※プラン制限あり | 検索、アプリ作成、プロセス管理設定、スレッド要約、レコード一覧分析など。 | OCR、画像認識、プロンプトによる条件式設定など。 |
| 連携・拡張性 | 日本国内のサービスとの連携プラグインが豊富。 | Google Workspaceとの親和性が抜群。 |
| オートメーション機能 ※プラン制限あり | 外部サービス連携で実現可能。 | 標準搭載。 |
| 言語対応 | 日本語 ユーザーごとに英語、中国語に切替可能。 | 英語 |
| 推奨デバイス | PC | モバイル |
コスト面比較:どちらが経済的か?
コスト体系は両者で大きく異なります。
kintone
プラン
- ライトコース(月額1,000円/1ユーザー):標準機能のみ。アプリ作成数やスペース数に制限あり。
- スタンダードコース(月額1,800円/1ユーザー):プラグインやAPI連携も含む全機能利用可。
- ワイドコース(月額3,000円/1ユーザー):ポータル拡張やプロセス管理を強化した大規模利用向け。
社外ゲスト招待(ゲストユーザー)
- ライトコース(月額700円/1ユーザー)
- スタンダードコース、ワイドコース(月額1,440円/1ユーザー)
特徴
- 最低10ユーザーからの契約が必要。※ワイドコースは1,000ユーザー
- メール共有、セキュアアクセス、ディスク増設のオプションあり。
- 学校法人、公共団体、特定非営利活動法人を対象にした特別ライセンスあり。
AppSheet
プラン
- Free:無料。プロトタイプ作成や個人利用向け(10ユーザーまで共有可)。
- Starter(月額$5/1ユーザー):基本的なアプリ機能。
- Core(月額$10/1ユーザー):オートメーション機能、セキュリティ。
- Enterprise Plus(月額$20/1ユーザー):高度な機能(OCR、AI)、ガバナンス、API連携など。
社外ゲスト招待
- AppSheet User Pass(月額$5/1ユーザー・1アプリ)
特徴
- 機能や利用範囲に制限はあるが、無料プランで手軽に試せる。
- AppSheet Core ライセンスがほとんどの Google Workspace エディションにデフォルトで含まれている。
メリットとデメリット
ここで、両者の強みと弱みを整理します。
kintone
メリット
- 日本語情報とサポート:コミュニティも活発で、困ったときに解決しやすい。
- 日本の商習慣への強さ:承認フロー(プロセス管理)が使いやすい。
- 直感的な操作性:ITリテラシーが高くない人でも比較的馴染みやすいUI。
- 豊富なプラグイン:国内ベンダーや個人配布による拡張機能で、かゆいところに手が届く。
- グループウェアとしても利用:コメント機能やスレッド機能を活用したコミュニケーション、スケジュール共有や承認フローも簡単に実現可能。
デメリット
- データソースの制約:基本的にkintone自体がDBとなるため、外部DBとの連携は工夫が必要。
- 標準機能の制限:標準機能でできることは限定的。外部サービスの追加でコスト増の可能性あり。
- UIカスタマイズの難易度:JavaScriptやCSSの知識が必要になる場合がある。
- ユーザビリティの低下:無料プラグインを利用する際、多くの場合、広告が入るようになる。
AppSheet
メリット
- 導入のしやすさ:Google Workspace利用中の組織であれば、追加料金なしで利用可能。
- データソースの柔軟性:既存のスプレッドシートやDBをそのまま活用できる。
- Google Workspaceとのシームレスな連携:Gmail通知やカレンダー連携が容易。
- 先進的なAI機能:OCRや画像認識、一部プランではGeminiをアプリに組み込める。
デメリット
- 日本語非対応:編集画面をはじめ、公式ドキュメントやコミュニティは基本英語。
- UIカスタマイズの制限:アプリの見た目が画一的になりがち。
- 学習コスト:kintoneであればプラグインで解決できることも、AppSheetだと関数や条件式を駆使するケースが多々あり、使いこなすための学習がやや必要。
結論:どちらを選ぶべきか?
最終的に、どちらのツールが「優れているか」ではなく、「自社に合っているか」が重要です。
kintoneが向いているケース
- オフィスでのデスクワークが中心の企業。
- グループウェアとしての利用も想定し、社内プラットフォームを統合したい企業。
- 日本語のサポートを重視する企業。
- 想定利用ユーザー10名以上の企業。
AppSheetが向いているケース
- すでにGoogle Workspaceを活用している企業。
- 建設、製造、物流など、現場作業員のモバイルデバイスを活用したい企業。
- 個人、もしくは少人数から始めたい企業。
最適なツール選びでDXを成功させるために
kintoneとAppSheetは、どちらも優れたノーコードツールですが、それぞれに特徴や得意分野があり、組織の状況や目的によって最適な選択肢が異なります。
まずは自社の「どの業務」を「誰が」「どのように」改善したいのかを明確にすること。そして、可能であれば両ツールの無料トライアルを活用し、実際の操作感を試してみることをお勧めします。

